「エビデンス」「科学的介護」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか?最近では2021年から「LIFE」が導入され、これらの言葉に触れることが増えました。
しかし、訪問介護ではLIFEの運用により算定できる加算が対象外となっているため、ヘルパーさんの中には聞きなじみのない方も多いかもしれません。しかし、今後は対象となる可能性が高く、介護職者として知っておく必要はあります。
そこで今回の記事では、エビデンスに基づいた化学的介護について解説します。LIFEについても触れますのでぜひ、理解を深めてください。
介護におけるエビデンスとは?
エビデンスとは「証拠」「裏付け」「根拠」といった意味で用いられるビジネス用語です。医療の現場ではエビデンスという言葉が使われるのは一般的で、常に患者さんのデータを収集し、治療効果を検証した上でエビデンスに基づいた治療が施されます。医師や看護師は自分の経験や勘だけに頼るのではなく、しっかりとしたデータや情報をもとに効果的な医療サービスを提案しています。
一方介護現場では、医療現場のようにケアの効果の検証や、データに基づいた介護サービスの提供はほとんど行われてきませんでした。介護従事者のこれまでの経験や勘に頼り、試行錯誤しながらご利用者への対応方法を検討してきた流れがあります。
そういった背景から、近年では介護現場でも根拠に基づくサービス提供が重要視されています。国をあげて推進に取り組んでおり、ケアの内容などのデータを収集・分析するためのシステムである「LIFE」が2021年4月から運用開始されました。
科学的介護情報システム「LIFE」とは?
厚生労働省では「LIFE」の前に、「VISIT」「CHASE」というデータベースを運用していました。「VISIT」は通所や訪問リハビリなどでリハビリテーションのデータを集めて分析するためのシステム、「CHASE」は利用者の状態やケア内容を収集するシステムです。この2つのデータベースの一体的な運用が開始され、その名称が「Long-term care Information system For Evidence」略して「LIFE」に変更されました。日本語で「科学的介護情報システム」という意味です。LIFEの運用方法や役割について詳しく見ていきましょう。
LIFEの運用方法
LIFEを使用するには、厚生労働省が運営する専用のサイトに利用申請した上で、ユーザー登録を行います。
入力したご利用者のデータは、3か月に1回「科学的介護推進に関する評価」を実施し、LIFEを通して提出します。LIFEに関する加算を算定する施設や事業所は、翌月10日までにデータを提出しなければならないため注意が必要です。
LIFEの役割
LIFEの役割はご利用者の情報を収集し、データを蓄積した上で分析することです。データにもとづく以下のようなPDCAサイクルをまわすことで、サービスの質を向上させることを目指します。
P | Plan | 計画 | ご利用者の基本情報や心身の状況に基づいた計画書の作成 |
D | Do | 実行 | 日常のケアの中で、計画書に基づいたケアを実行 |
C | Check | 評価 | 利用者の状態・ケアの実績を入力 評価をLIFEにデータを提出 |
A | Action | 改善 | LIFEからのフィードバック情報をもとに計画書の見直し |
これまでも介護の現場ではPDCAサイクルを回しながらケアを行ってきました。ここに、LIFEによる分析を導入することで、根拠に基づいたケアの見直しを行うことが可能になります。
LIFEの運用で期待できること
LIFEで厚生労働省にデータを提出するとフィードバックが得られ、介護の実践に活かすことができます。運用によって期待できることを確認していきましょう。
サービスの質が向上する
LIFEでは、全国各地の介護施設や事業所からのデータが蓄積されています。これら大量のデータを分析して得られた結果がフィードバックされるため、介護現場ではエビデンスに基づいた計画書の見直しが可能になります。
これまでの介護方法は、スタッフの主観に基づくものも多かったかもしれません。現場により対応が異なっていた介護方法では、ケアの方法で意見が食い違うこともあるでしょう。しかし、ケアの根拠を示すことができればそれに従ってサービスを行えば良いのです。根拠に基づいたケアを実践することで、いつ、誰がケアにあたっても同じ質のサービスが提供できます。新人スタッフが、人によって言うことが違うと悩んでしまうことはよくあることです。介護の標準化は、新人研修やサービスの向上、業務の効率化などさまざまなことに役立つでしょう。
自立支援・重度化防止が期待できる
エビデンスに基づいた介護サービスは、ご利用者の自立支援や重度化防止につながります。統一されたケア内容で、いつ誰がケアを行っても質の高いサービスが提供できるからです。
それぞれの主観に基づくケアを行っていた場合、ADL改善の効果が得られないケアや間違った対応をしてしまう可能性があります。誰か1人が良いケアを提供していたとしても、自立支援や重度化防止にはつながらないため、一貫性のある効果的なサービスをチーム全体で継続することが大切です。
LIFEによりフィードバックされた内容に基づき、計画書を見直し実践することで、ADL、QOLの維持向上が期待できるでしょう。
ご利用者がサービスを選択しやすくなる
LIFEでのフィードバックからは、主観的な情報だけでなく客観的な情報が得られます。これによりご利用者が、利用するサービスを選択しやすくなることが期待できます。
これまでも、ご利用者のADL、QOLの維持向上やご家族の介護負担の軽減などを考慮してさまざまな介護サービスを提案してきたかと思います。しかし、提案するサービスに確かな根拠はないため、介護する側の主観だった可能性も否定できません。
しかし、エビデンスがあればサービスを利用する根拠が提示できます。心身への効果が明確になることによりモチベーションにつながったり、サービスを拒否されている方の利用につながったりすることも期待できます。サービス提供側も、サービスが提案しやすくなるでしょう。
科学的介護推進体制加算とは
LIFEの運用を推進すべく、介護報酬に加算が新設されました。LIFEを活用した介護サービスを提供することにより「科学的介護推進体制加算」の算定が認められます。具体的には、ご利用者ごとの情報をLIFEを通して厚生労働省に提出し、フィードバックされた内容を活用して介護サービスを提供していることが算定要件です。
科学的介護推進体制加算の単位数は以下の通りです。
科学的介護推進体制加算 | 40単位/月 |
施設サービスでは(Ⅰ)(Ⅱ)の加算区分があり、単数が異なります。
科学的介護推進体制加算(Ⅰ) | 対象となる施設系サービスすべて | 40単位/月 |
科学的介護推進体制加算(Ⅱ) | 介護老人保健施設 介護医療院 | 60単位/月 |
介護老人福祉施設 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 | 50単位/月 |
現在、訪問介護サービスは加算が算定できるサービスの対象になっていません。2024年度介護報酬改定では、訪問介護サービスのほか、居宅介護支援や訪問看護サービスは加算対象の見送りになっています。
エビデンスに基づく科学的介護を理解しておこう
今回の記事では「エビデンスに基づいた科学的介護とは?LIFEの運用についても解説」と題して、エビデンスに基づいた科学的介護「LIFE」について解説しました。
LIFEの運用は、まだ開始したばかりであり課題も指摘されています。しかし、改善を重ね、データが蓄積された将来的にはサービス提供の軸になることが期待できるでしょう。
また、訪問介護サービスをはじめ、現在対象になっていない訪問系サービスについても運用が検討されています。
LIFEの導入により業務負担も懸念されますが、ご利用者へのサービス向上やスタッフが働きやすい職場環境の構築に大きな効果が期待できます。基礎的な知識を身に付けておき、今後の導入に期待しましょう。
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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