訪問介護事業所の管理者やサービス提供責任者の皆様、特定事業所加算の取得でお悩みではないでしょうか?この記事では、特定事業所加算の算定要件や注意点を解説します。加算取得による収益向上とサービス品質の向上を両立させ、競争力のある事業所運営を実現しましょう。
特定事業所加算とは

特定事業所加算は、訪問介護事業所のサービスを評価する制度です。この加算は、質の高いサービスを提供する事業所を評価し、経営の安定化を図ることを目的としています。
各加算にはそれぞれ算定要件が設定されており、専門性の高い人材の確保や体制整備を評価するだけでなく、重度利用者への対応も重視されます。
最大で所定単位数の23%の加算が受けられるため、特定事業所加算の取得は、収益向上とサービス品質の向上を両立させる重要な経営戦略となります。
特定事業所加算の算定要件

特定事業所加算の算定要件は、体制要件、人材要件、重度者対応要件の3つに大きく分類されます。各要件の詳細を理解し、適切に対応することが加算取得の鍵です。
1. 体制要件
体制要件は、事業所の運営体制に関する基準です。
算定要件には、以下の8項目があります。
計画的な研修の実施
すべての訪問介護員に対して、計画的な研修の実施が求められます。これには、訪問介護員だけでなくサービス提供責任者の研修も含めなければなりません。それぞれに具体的な目標・研修内容・期間・時期等を定め、計画的に行う必要があります。
定期的な会議の開催
サービス提供責任者が中心となり、サービス提供に関する情報共有や留意事項の伝達、課題解決の討議を行います。
この会議は、おおむね1ヵ月に1回以上開催し、すべての訪問介護員が参加する必要があります。いくつかのグループに分けたり、テレビ会議で開催したりすることも可能です。
利用者情報の指示・報告
サービス提供責任者は、訪問介護員がサービスを開始する前に必要な情報や留意事項を文書等の確実な方法で伝達しなくてはなりません。また、サービス提供終了後には訪問介護員からサービス状況の報告を受ける必要があります。
健康診断等の実施
訪問介護員等に対し、事業主の費用負担により1年に1回以上の健康診断を行うことが求められます。常勤・非常勤を問わず、すべての訪問介護員に対して実施しなくてはなりません。
緊急時における対応方法の明示
緊急時等における対応方法を、利用者に対して説明します。「明示」とは、緊急時の対応方針や連絡先、対応が可能な時間等を記載した文書を利用者に交付・説明するということです。重要事項説明書等に記載しておき、説明・交付する方法でも、基準を満たせます。
看取り期の対応
加算(Ⅰ)加算(Ⅲ)を算定する場合は、看取り期のご利用者への対応方針を策定し、体制を整備しなくてはなりません。
例えば、病院や診療所もしくは訪問看護ステーションの看護師と連携し、24時間対応できる体制を確保し、看取りに関する職員研修を実施することが必要です。また、ご利用者に対しても、方針を説明し同意を得ておくことが求められます。
中山間地域等に居住する者へのサービス提供
加算(Ⅴ)の算定は、山間地およびその周辺の地域に居住するご利用者に対して継続的にサービスを行っていることが要件です。「中山間地域等」の地域の定義は、厚生労働大臣により定められた基準によります。
多職種共同による訪問介護計画の随時見直し
ご利用者の心身の状況や、家族等の状況に応じて、サービス提供責任者が中心となり多職種と共同して訪問介護計画を随時見直している場合に要件を満たします。他職種とは、ケアマネジャーや医療従事者等のご利用者に関係するメンバーです。
2. 人材要件
人材要件は、事業所の従業員の資格や経験に関する基準です。
訪問介護員等の要件
訪問介護員等が以下のどちらかを満たしている必要があります。
- 介護福祉士の割合がが30%以上
- 介護福祉士・実務者研修修了者・介護職員基礎研修課程修了者・1級課程修了者(看護師等含む)の割合が50%以上
サービス提供責任者の実務経験
サービス提供責任者が以下のどちらかを満たしていることが要件です。
- 実務経験3年以上の介護福祉士
- 実務経験5年以上の実務者研修修了者等
実務経験の期間は、訪問介護サービスに限らず、他の在宅・施設介護業務の実務経験も認められます。
人員基準を上回るサービス提供責任者の配置
人員配置基準で必要な常勤のサービス提供責任者を配置し、基準より1人以上多く配置している場合に条件を満たします。
訪問介護員の勤続年数
事業所の訪問介護員の中で、勤続年数が7年以上の方が30%以上いる場合には要件を満たします。同一法人等の他の事業所で働いていた場合にも、勤続年数に含むことが可能です。
3. 重度者対応要件
重度者対応要件は、要介護度の高い利用者へのサービス提供体制を評価する基準です。具体的には、要介護4または5の利用者、認知症自立度Ⅲ以上の利用者、たんの吸引等を必要とする利用者の割合が20%以上であることが求められます。また、届出月の前3ヶ月において、1人以上の看取り期の利用者への対応実績も必要です。
加算区分別の算定条件と注意点

特定事業所加算は、(Ⅰ)から(Ⅴ)までの5つの区分があり、それぞれ異なる算定条件と加算率が設定されています。各区分の特徴を理解し、自事業所に適した加算を選択することが重要です。
特定事業所加算(Ⅰ):20%加算の条件
特定事業所加算(Ⅰ)は、最も高い20%の加算率が適用される区分です。この区分の取得には、厳格な要件を満たす必要があります。
具体的には、基本の体制要件に加え、サービス提供責任者や訪問介護員の資格や実務経験が求められます。重度者等対応の実績も要件になります。事業所として安定した雇用や人材育成が行われ、質の高いサービスが提供できている場合に算定できる、上位の加算区分です。
特定事業所加算(Ⅱ):10%加算の条件
特定事業所加算(Ⅱ)は、10%の加算率が適用される区分です。この区分は、(Ⅰ)と比較してやや緩和された条件となっています。人材要件は(Ⅰ)よりは緩和され、重度要介護者への対応実績は必須ではありません。この区分は、(Ⅰ)への移行を目指す事業所にとって、ステップアップの段階と考えて良いでしょう。
特定事業所加算(Ⅲ):10%加算の条件
特定事業所加算(Ⅲ)は基本の体制要件に加え、サービス提供責任者の配置が基準より上回っている場合または、訪問介護員の勤続年数が長い方が多い場合に算定できる加算区分です。また、重度者等対応の実績も重視されています。
特定事業所加算(Ⅳ):3%加算の条件
特定事業所加算(Ⅳ)は、(Ⅲ)と同様に、基本の体制要件とサービス提供責任者の配置が基準より上回っている場合または、訪問介護員の勤続年数が長い方が多い場合に算定できます。重度要介護者への対応実績などの条件はなく、取り組みやすい条件に緩和されています。
特定事業所加算(Ⅴ):3%加算の条件
特定事業所加算(Ⅴ)は、他の加算区分と比較して最も取得しやすい条件設定です。中山間地域等でのサービス提供や、多職種共同による訪問介護計画の随時見直しを評価します。特定事業所加算(Ⅴ)は、併算定が可能という特徴があります。他の加算と併算定することで、最大で23%の加算率を得ることが可能です。
加算返還リスクと自己点検の重要性

特定事業所加算の取得後は、継続的な要件の遵守が求められます。加算返還リスクを回避し、適切な加算算定を維持するためには、定期的な自己点検と適切な記録管理が不可欠です。
加算返還が発生する主なケース
加算返還が発生する主なケースの例は、以下のようなものがあります。
- 研修や会議の実施が不十分
- 人員配置基準を満たさなくなった
- 軽度利用者が増え、重度利用者の割合が下がった
- 24時間連絡体制などが機能していなかった など
研修や会議の実施、健康診断の実施などはすべての加算区分に共通する項目です。これらが実施されていない、または記録が不十分な場合は返還の対象となります。また、職員の入退職などにより、人員配置基準を満たさなくなるケースやご利用者の状況により重度者対応要件を満たさなくなるケースにも注意が必要です。また、24時間連絡体制など、加算を取得するために必要な体制が実質的に機能していなかった場合も返還リスクがあります。これらのケースを避けるためには、常に要件を意識した運営と、適切な記録管理が必要です。
効果的な自己点検の実施方法
効果的な自己点検を実施するためには、点検項目リストを作成して管理することが重要です。このリストには、人員配置、研修実施状況、会議開催記録、24時間連絡体制の確認など、加算要件に関連するすべての項目を含めます。
点検の頻度は、月次で実施するようにしましょう。点検の際は、複数の目で確認することが重要です。管理者とサービス提供責任者が協力して点検を行い、相互チェックすることで、見落としを防ぐことができます。また、点検結果は文書化し、改善が必要な項目については具体的な対策を立案・実行することが大切です。
記録管理と書類整備のポイント
適切な記録管理と書類整備は、加算返還リスクを低減する上で重要です。まず、研修や会議の記録は、日時、参加者、内容、決定事項を明確に記載するようにします。人員配置に関しては、職員の資格証や経歴書のコピーを保管し、定期的に更新しましょう。また、重度者対応の実績を示す書類としては、サービス提供記録や計画書を適切に管理しておくことが大切です。監査時には迅速に必要な資料を提示できる体制を整えることが求められます。算定の根拠となる記録をすぐに提示できるようにしておきましょう。
特定事業所加算で実現する持続可能な事業運営

定事業所加算の取得と維持は、訪問介護事業所の持続可能な運営を実現する重要な戦略です。加算要件を満たすことは、単に収益を増加させるだけでなく、サービスの質向上と職員の専門性強化につながります。特定事業所加算を活用することで、利用者、職員、事業所のすべてがより良い関係を築けるようにしましょう。
特定事業所加算の算定には記録のクラウド化がカギ
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投稿者プロフィール

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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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