少子高齢化が進み年々介護サービスの需要が高まる中、高齢者が住み慣れたご自宅で生活し続けられる、訪問介護事業所は重要な役割を担っています。
サービス提供責任者やヘルパーとして訪問介護事業所で働く方の中には、これまでの介護職の経験を活かし、自身で開業したいと考える方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では「訪問介護事業所の開業を決めたらやるべきこと7選」と題し解説します。事業所の開設に必要なことを理解するのに役立ててください。
1.法人格を取得する
訪問介護事業所は個人事業主が事業所としての指定を受けることができません。開業するためには法人格を得る必要があります。
法人には「営利法人」と「非営利法人」があり、個人で立ち上げることができる法人には以下のような法人があります。
【営利法人】
株式会社 | 株主から出資を募り事業をおこなう法人格です。株式を出資者に販売することで資金を集めます。株式会社はほかの法人格より設立費用がかかりますが、社会的信用度がアップします。 |
合同会社 | 会社の出資者が経営者であり、会社の所有と経営が一致している法人格です。出資者が会社の経営や利益の分配などに決定権を持ちます。設立の手間や費用が少なく、株式会社より柔軟に運営できる特徴があります。 |
【非営利法人】
NPO法人 | 営利を目的としない法人です。金銭的な利益を得る目的ではなく、社会に貢献するための活動を行います。 組織には役員として理事3名と監事1名、社員は10名以上必要です。都道府県もしくは市区町村に認定された後でないと登記できないため、時間と手間がかかりますが、少額で設立でき、税制上の優遇措置も受けられます。 |
一般社団法人 | 一般社団法人は「人」の集まりに対して法人格を与えたものです。理事1人と社員2人以上集まれば設立できます。 非営利法人であり、事業で利益を出しても分配してはいけないことになっています。NPO法人のように所轄庁の認可を受ける必要がなく、法務局で登記すれば設立が完了します。 |
それぞれ、設立にかかる手間や費用など条件が細かく決められているので、メリット・デメリットをよく比較して検討しましょう。
2.事業計画書を作成する
事業計画書とは今後どのように事業を運営していくのかを記載した書類です。事業について方向性や目的などを明確化し、見通しを立てるために記載します。
事業計画書に決められた形式はありませんが、主に、事業の目的・サービス内容・経営戦略・競合分析・収益見込などを記載します。事業所の指定申請を受ける際や金融機関から融資を受ける際にも提出を求められる大切な書類です。
3.資金を調達する
訪問介護を開業するのには当然、まとまった資金が必要になります。自己資金だけでは資金が調達できない場合には融資や補助金・助成金が受けられます。費用や資金の調達方法について確認しておきましょう。
開業にかかる費用
訪問介護の開設にかかる費用には以下のようなものがあります。
- 法人設立費
- 指定申請費
- 人件費
- 事務所契約費
- 備品
- 車両購入費
- 広告宣伝費
- 運転資金
介護保険サービスは報酬が入金されるのが、サービス提供から2ヶ月後になります。そのため開業時に必要な資金の中には、手続きや物品購入にかかる初期費用に加え、その後数ヶ月の運転資金も必要です。
開業から2ヶ月は無報酬で、その後順調にいけば徐々に報酬が増えていくことになります。しかし、開業直後はケアマネジャーやご利用者への認知も低いため初月からフル稼働するのが難しいケースがほとんどです。そのため、余裕をもって十分な開業資金を準備しておくと安心です。地域や事業の規模によって異なりますが、一般的には800万〜1,000万円ほどの開業資金が必要だと言われています。
資金の調達方法
訪問介護事業所を開業する際の資金が自己資金だけでは賄えない場合は、金融機関からの融資を受ける方法があります。介護事業所を立ち上げる際によく利用されているのが、政府系金融機関である「日本政策金融公庫」です。日本政策金融公庫が行う「新規開業資金」は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした制度です。起業したい方に対し無担保・無保証人で、長期かつ低金利の融資を行っています。
開業後に条件を満たしていれば受け取れる助成金もあります。
訪問介護事業の開業に活用できる助成金が「介護労働環境向上奨励金」です。介護労働者の労働環境の向上を図った事業主に支払われます。取り組んだ内容に応じて「介護福祉機器等助成」「雇用管理制度等助成」の2種類があり、申請にはあらかじめ計画書を作成し、都道府県労働局の認定を受ける必要があります。
4.訪問介護事業所の指定基準を確認
訪問介護事業所を開業するには、法人格を取得するほかに指定基準を満たさなければなりません。「人員基準」「設備基準」「運営基準」の3つの基準をクリアしなければ、指定機関から訪問介護の指定が受けられないため確認しておきましょう。
①人員基準
訪問介護事業所には「ホームヘルパー(訪問介護員)」のほかに、「サービス提供責任者」と「管理者」を設置しなければなりません。
ホームヘルパーは介護職員初任者研修の終了者を、常勤換算で2.5人以上配置します。
サービス提供責任者は、利用者の数が40人またはその端数を増すごとに1人以上の配置が必要とされています。サービス提供責任者として申請する者は、介護福祉士実務者研修を修了するか介護福祉士の資格を取得していることが必須条件です。
管理者には特に資格要件がありませんが、兼務が認められているためサービス提供責任者が管理者も担うケースがあります。
②設備基準
訪問介護事業所の設備基準は、施設や通所介護のようにご利用者が直接利用する場所ではないため、それに比べると細かくは定められていません。
訪問介護事業所の開設に必要な設備は以下のとおりです。
事務室 | 個人情報保護のため鍵付き書庫を設置 |
相談室 | 利用申し込みや相談に使うため事務室と区分けする。余裕がなければ間仕切りでも可能 |
手洗い設備 | 必要な設備・備品等を確保する |
③運営基準
訪問介護事業所の運営は厚生省令にて定められている「訪問介護サービスに関する基準」と「業務運営に関する基準」の2種類を満たさなければなりません。
運営基準の主な項目は以下のとおりです。
- サービス提供内容の説明・同意
- サービス提供拒否の禁止
- 身分を証する書類の携行
- 受給資格等の確認
- 要介護認定の申請に係る援助
- 心身の状況等の把握
- 居宅介護支援事業者等との連携
- 居宅サービス計画に沿ったサービスの提供
- サービス提供の記録
- 訪問介護計画書の作成
- 緊急時・事故発生時などの対応
- 苦情処理について
- 利用料等の受領方法
- 秘密保持
- 不当な働きかけの禁止
- 虐待の防止
- 衛生管理
上記は一部抜粋です。訪問介護の運営基準の内容はスタッフに周知徹底しながら、開業後も基準に則った事業運営が大切になります。
5.指定申請書類を提出し審査を受ける
訪問介護事業所は、都道府県や市区町村に指定申請の書類を提出し審査を受けなければ開業できません。申請する際の要件や申請書の様式は、申請先によって異なるので、開業する場所で確認してから手続きを行います。事前相談や研修の受講が必要な自治体もあるので、計画的に申請手続きを行いましょう。
なお、申請が受理されると6年間の有効期限で事業が行えますが、6年後には更新申請の手続きをしなければならないので忘れないように注意が必要です。
6.労働環境を整える
スタッフが働きやすい労働環境を整えることも大切です。必要な準備物を確認しておきましょう。
事務所内の備品
訪問介護事業所には事務所の設置が必要であると設備基準で定められています。
事務所に必要な環境、設備は以下のとおりです。
- デスク
- オフィスチェア
- パソコン
- コピー機
- 鍵付き書庫
- ファイル、筆記用具などの文具
- 休憩室に必要なもの(電子レンジやポットなど)
- エアコン
- スタッフのユニフォーム
- 衛生用品(手洗い石鹸、アルコール消毒)
ほかにも、車を使用する際には車両費がかかる場合があります。
通信環境を整える
訪問介護事業所は外部との連絡手段が必要なので、電話機・パソコン・スマートフォンなどの通信機器の準備は必須です。事業所にはインターネット環境を整えておく必要があります。外出することも多いのでスタッフへスマホの支給も必要になるでしょう。
最近では、行政や取引先の事業所とのやりとりは、メールなどのインターネット環境を使用することが増えていますが、FAXを使うところも多いのが現状です。コピー機はFAXも使用できる複合機を準備しておきましょう。
介護ソフトを導入する
介護報酬請求をスムーズに行うためには介護ソフトの導入が必須です。最近は介護事業所でもIT化が推進されており、記録類も電子化して効率化することが求められています。
事業所を立ち上げるということは、「売上を確保し、事業を継続させる」必要があります。
残念ながら、日々の事務作業に追われ、本来のサービスの質を低下やミスの多発、余裕のない運営状況からスタッフの離職などが課題となり、閉業せざるを得ない事業所も多くあります。
安定的した事業所運営、特定事業所加算の取得、スタッフや利用者の満足度が高い事業所の多くは、効率化を実施しています。
売上のプラスともなる特定事業所加算の取得は介護ソフトの導入なくては非常に困難な面もあり、これから介護事業所を開設する場合は、立ち上げ時から介護ソフトを導入しておくことがおすすめです。
介護ソフトは各社さまざまな機能を持ったシステムが販売されています。必要な機能が備わっているのはもちろん、スタッフの使いやすさやサポート体制、価格が見合っているかなどをよく吟味して導入する介護ソフトを検討しましょう。
7.ご利用者獲得のための営業活動
新規オープン時の知名度が少ない事業所では、ご利用者の獲得に苦戦することが考えられます。訪問介護事業所の収入源は介護報酬から成り立っているため、サービス利用を獲得するための営業活動は欠かせません。
名刺・事業所パンフレット・ホームページなどを作成し、居宅介護支援事業所や地域包括支援センター、病院の地域連携室等に営業活動を行いましょう。
まずは、ご利用者の介護サービス利用に決定権があるケアマネジャーとの信頼関係を構築することが何より重要です。そこから質の高いサービスで、ケアマネジャーやご利用者からの信頼が得られるように積み上げていくことが大切です。
最後に|介護報酬請求が事業所運営の肝!
今回の記事では、訪問介護事業所の開業に必要な準備について解説しましたが、事業所の体制が整ってスタッフや利用者が確保でき、実際にサービスが開始できたとしても、最終的に介護報酬が入ってこなくては事業所としての運営ができません。
介護事業所は国からの介護報酬が一番の収入源となります。サービス実施の根拠となる介護記録に不備がある、漏れがあった、請求が間に合わないということがあると「返戻」となり、一気に資金繰りが難しくなってしまうことも。
介護報酬請求をいかにスムーズに、ミスなく行えるかということは、事業所運営の肝といっても過言ではありません。
こうしたリスクを回避するため、訪問介護事業所開業時に特におすすめなのは、請求代行サービスも併用できるテレッサモバイルです。
サービス実施の根拠となる介護記録に特化したシステムで、LINEを活用しているため操作も簡単、スタッフは直行直帰が可能となり、サービス提供責任者はサービス実施のチェックをリアルタイムで、どこからでも行うことができます。
さらに介護報酬請求の代行サービスを併用することで、毎月必ずやってくる請求業務までを一貫して任せることができます。請求業務に関わる人材の確保やスタッフの方への業務負担が無くなることで、業務の効率化、返戻などのリスク回避、ひいてはその時間を現場のサービスにあてることで売上UPを実現することもできます。
介護事業所で最も大変で時間のかかる業務は、介護記録のチェックと請求業務と言われています。これらの業務をテレッサモバイルで行うことで、スタッフの教育、サービスの質の向上など、本来取り組みたい業務に集中し、安定した事業所運営が叶うでしょう。
サポート体制も充実しているので、開業時に介護ソフトの導入がスムーズにできるか不安なサ責さんにも安心です。開業時から簡単で便利な介護システムを導入し、大変な立ち上げ時期を乗り切りましょう!
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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