介護記録の電子化により、監査などで指摘を受けないのか不安に思っている訪問介護事業所の担当者さんもいるのではないでしょうか?
実際に、他の事業所で実地指導のときに「印鑑を押さないといけません」「必ず紙の控えを渡さなければいけません」などの指摘を受けたという噂を聞いた方もいるかもしれません。
しかし、介護記録の電子化は国が推進していることです。国の方針にしたがっているのに指摘されてしまうのは納得がいかないでしょう。
そこで今回の記事では、訪問介護事業所における監査とその懸念点について解説します。監査に対応できるか心配で介護記録の電子化に踏み切れない方はぜひ参考にしてください。
監査(運営指導)とは?
監査とは、厳密には、運営指導・実地検査が行われたのちに行われる過程のことを言いますが、その運営指導の過程自体を「監査」と呼んでいる人が多くいます。運営指導は、介護事業所が介護保険法などの法令を遵守し、適正に運営されているかを行政が定期的に確認することを言い、自治体の担当者が、実際に事業所等に出向いて状況を確認して指導を行います。
2022年以前は「運営指導」は「実地指導」と呼ばれていましたが、2022年に名称が変更されました。指導は実地にて行うことが想定されてきましたが、最近ではオンライン等での確認が可能になり、設備やご利用者の状況を確認すること以外は「実地」で行う必要がなくなったからです。
この記事では、監査=運営指導として進めていきます。
監査(運営指導)の頻度
監査(運営指導)の実施頻度は、原則として指定又は許可の有効期間内に少なくとも1回以上とされています。介護事業所の指定又は許可の有効期間は6年なので、6年に1回は行われるということです。ただし、状況により回数を増やすことも可能とされているのでこの限りではありません。また、居住系サービスや施設サービスなどは、ご高齢者の生活の場ということから3年に1回の頻度が望ましいとされています。
監査が行われる際には、実施予定日のおおむね1月以上前までに、監査を行う旨が通知されます。
監査(運営指導)でチェックされる項目
監査の当日までに事前に提出を求められる書類が指示されている場合は、それらの資料を準備しておきます。提出書類の一例は、運営規定・重要事項説明書・勤務表・各種マニュアル等です。
また、介護保険で定められている基準を満たしているかの自己点検チェックシートで事前に自己点検して当日または事前に提出します。
当日チェックされる項目は以下のとおりです。
- 介護サービスの実施状況指導
- 最低基準等運営体制指導
- 報酬請求指導
上記の項目を、目視や書類で確認します。
訪問介護事業所が監査でチェックされる書類
実地指導でチェックされる主な書類は以下のとおりです。
- 重要事項説明書
- 利用契約書
- 運営規定
- サービス担当者会議の記録
- 居宅サービス計画
- サービス提供記録
- 訪問介護計画
- アセスメントシート
- モニタリングシート
- 訪問介護員等の雇用形態がわかる文書、勤務実績
- 管理者雇用形態がわかる文書、勤務実績
- 勤務体制一覧表
- 訪問介護員等の資格証
- 介護保険番号、有効期限等を確認している記録等
- 請求書、領収書
- 業務継続計画
- 研修及び訓練計画、実施記録
- 個人情報同意書
- 従業者の秘密保持誓約
- 事業所のパンフレット、チラシ
- 研修計画と実施記録
- 業務継続計画
- 緊急時対応に関する書類
- 事故対応に関する書類
- 苦情対応に関する書類
- 感染症対応に関する書類
- ヒヤリハットに関する書類
- 虐待防止に関する書類
参考:厚生労働省 介護保険施設等運営指導マニュアルについて 別添1 確認文書・確認項目一覧
【監査(運営指導)】介護記録電子化の懸念点
これまでの監査での書類の確認方法は、指導員が現地にて事前に準備しておいた書類に目を通していく方法でした。
しかし、介護記録が電子化すると、どのように指導が行われるのでしょうか。
過去に指導を受けた事業所では「印鑑を押さないといけない」「書面で準備しておかなければならない」と指摘を受けたこともあるようです。
どのような懸念点があるのか確認してみましょう。
1.紙で提出を求められる
まず心配なのが、実地指導のときに確認書類を書面で準備しておかなけれなならないのかという点です。せっかく電子化を進めているのに、指導のためだけに書類を印刷して準備するだけでも時間と手間がかかってしまいます。
自治体や担当者によっても対応が異なることはありますが、現在は多くの事業所で電子化をしている例もあり、ほとんどはパソコン上での確認で問題なかったとされています。
また、厚生労働省の「介護保険施設等運営指導マニュアル」によると
介護保険施設等に対して大量のコピーを求める等の過剰な手間を発生させないよう、また、当該方法を強制させることのないよう、実施方法については十分な配慮が必要です。
厚生労働省 介護保険施設等運営指導マニュアル
運営指導においては、介護保険施設等において作成、保存等が行われている各種書面について、当該書面に代えて電磁的記録により管理されている場合は、ディスプレイ上で内容を確認することとし、別途、印刷した書類等の準備や提出は求めないようにしましょう。
厚生労働省 介護保険施設等運営指導マニュアル
との記載があります。
これは、国が記録のICT化を進めているのですから当然のことであり、指導を受ける側としてもしっかり頭に入れておきたい内容です。
2.利用者の印鑑がいるかいらないか
2つ目の懸念点は印鑑についてです。これも、自治体により異なり、押印して提出しなければならない書類がまだ残存しているようです。
しかし、厚生労働省の令和3年度の介護報酬改定の中では、利用者等への説明や同意については電磁的な対応を原則認めるとされています。介護業界でも、署名・押印が見直されつつあるのが現状です。
また、そもそも介護記録については、法律上、押印の義務はありません。
実際に実地指導の担当者に質問した時の回答は以下のとおりです。
Y市(関東) | 印鑑も紙の控えもいりません。但し、現場でサービス記録後に利用者様から開示請求があった場合は記録を開示出来る状態でなければなりません。 |
O市(近畿) | 同上の回答 |
H市(中国) | 印鑑も紙の控えもいりませんが、もし可能であればトラブル回避の為に印鑑や紙の控えを渡した方が良いですよとアドバイス程度で指導させて頂くことはございます。 |
このように、自治体からは印鑑や紙の控えはいらないと回答を得ました。
しかし、兵庫県の明石市には「原則サービスの提供の記録及びサービス提供実績記録票の両方に対して自署又は押印にて確認を受けることとする」という独自の取り扱いが存在しています。
このような自治体の事業所では別途対応が必要ですが、ほとんどの事業所が介護記録を電子化しても問題なく監査に対応可能です。
参考:明石市役所 福祉局福祉政策室福祉施設安全課 令和4年度 指定障害福祉サービス事業者等集団指導【実地指導に係る留意事項等について】
3.介護記録の保存年数
監査のときには、2年程度の記録を確認するのが一般的です。ただし、自治体により文書の保存期限が2年〜5年と異なります。
そのため、自治体のルールにより文書を保存しておき、すぐに提示できるようにしておく必要があります。
しかし、2年~5年もの間、日々のサービスの記録をすべて保存しておくというのは、場所的にも管理の手間をとっても大変です。
介護記録の電子化は、記録用紙の保管場所が不要になるのはもちろん、パソコン上で検索すればすぐに記録を提示できるため、負担が軽減できます。
監査(運営指導)のあり方が変わるのはこれから
前述の通り、厚生労働省では介護現場におけるICT化を進めています。
少子高齢化により介護人材が不足する中で、記録を電子化し業務の効率化を図ることが求められています。働きやすい環境作りで職員を定着させることや、本来の仕事である介護サービスの提供に集中することが大切です。
また、最近では新型コロナの影響などで介護の分野でも急速にデジタル化が進みました。
国をあげて介護現場のICT化が推進されている中で、事業所側も努力して介護記録の電子化等を進めています。しかし、せっかく電子化を進めても、監査で書類を紙で準備しておくように言われたり、印鑑を指摘されるのでは、何のために国の方針にしたがっているのか分かりませんよね。
業務効率の改善、サービスの質向上のため、前向きに電子化を検討する一方で、実際の介護記録に関するルールを、指導を受ける側も理解し、冷静に対応する必要があります。
介護現場のICT化はまだまだ始まったばかりと言っても過言ではありません。今後は監査のあり方も変わってくるでしょう。
介護記録の電子化ならテレッサモバイル
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介護記録の電子化は、業務効率アップはもちろん、特定事業所加算の要件クリアにも役立ちます。
その他、介護記録の電子化に際し、ご不安な面がございましたらお気軽にご相談くださいね。
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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