介護士にとって、バイタルチェックはご利用者の健康状態を把握するためにも重要な業務の一つです。
訪問介護の場合、ヘルパーが単独で行うため不安に感じている方も多いかもしれません。
- 測定方法は合っている?
- 正常値がよくわからない…
- 異常があったらどうしたら良いの?
このように感じている方は今回の記事を参考に理解を深めて下さい。
バイタルとは
「バイタル」とは「バイタルサイン」の略称です。「バイタル」が「生きている」、「サイン」が「兆候」という意味なので、人間が生きていることを示す指標のことをいいます。
基本となるのは「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」の4項目ですが「意識レベル」「尿量」「酸素飽和度(SpO2)」などを含めるケースもあります。とくにコロナ禍においては、介護スタッフがパルスオキシメーターで血液の酸素飽和度を測定する機会が増えたかもしれません。
バイタルチェックは、ご利用者の健康状態を把握するために欠かせない指標です。ご利用者の日々の健康管理のほか、体調不良時や事故の後などに測定の指示が出ることもあるため、知識とスキルを身につけておく必要があります。
バイタルチェックの重要性
高齢者の日常生活においてバイタルチェックは非常に重要です。なぜなら、高齢者は体調に異変があっても自覚症状として現れにくいからです。また、自覚症状があってもうまく周囲に伝えられない方もいます。そのため、バイタルチェックは健康状態に問題を感じていない方に対しても重要な役割を果たします。
年齢を重ねると何らかの持病を持っている方が多いことや、免疫力の低下で感染症にかかるリスクが高いこともバイタルチェックが重要な理由の一つです。バイタルチェックによりご利用者の体調の変化にいち早く気付けるため、病気の早期発見・早期治療につながり、症状の悪化を防ぐことにもなります。
訪問介護でバイタルチェックを行うタイミング
バイタルチェックを行うタイミングは、利用者ごとの健康状態や介護計画によって異なります。
訪問介護において、バイタルチェックを行うことが多いのは以下のタイミングです。
- 入浴前
- 外出前
- 体調不良時
- 様子に変化を感じたとき
- 転倒など事故の後
- その他計画書により指示がある場合
サービス提供責任者が作成した計画書にバイタルチェックの実施が記載されている場合は、計画に沿って測定し記録に残します。また、体調不良時や事故の後などで指示があったときや異変に気付いた場合などには臨時で測定することもあります。
バイタルチェックは医療行為に該当しない
専門的な知識を持って行う医療行為は医療従事者にしか認められていません。ただし、電子機器を使用したバイタル測定はヘルパーにも認められています。
介護職の使用が認められているバイタルチェックの医療機器は以下の通りです。
- 水銀体温計
- 電子体温計
- 耳式電子体温計
- 自動血圧測定器
- パルスオキシメーター
血圧測定の際に医療現場で使用されている水銀の血圧計は介護職が使用することが認められていません。しかし、2020年に水銀を使った機器の製造や輸出入が禁止されたため、医療従事者も水銀の血圧計を使用することは少なくなるでしょう。
バイタルチェックの手順・ポイント
ここからは、バイタルチェックの際の手順やポイントを解説します。
1.呼吸
酸素を肺で体内に取り入れ、不要な二酸化炭素を排出する働きを「呼吸」といいます。1分間にどれくらいの頻度で吸ったり吐いたりするかを観察します。
測定方法 | 吸うと吐くを1回として、胸もしくは腹部が1分間に何回上下するかを数える |
基準値 | 15~20回/分 |
注意点 | 意識すると乱れるので本人に気づかれないように行う 苦しさや「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった異音がないかも確認 |
2.体温
体調に異変を感じたら、まず測定することが多い「体温」。風邪や感染症などで上昇します。
測定方法 | 脇の下に体温計を挟んで測定するのが一般的 |
基準値 | 36.0〜36.9℃(感染症法では37.5度以上が発熱) |
注意点 | 汗をかいている場合はよく拭いてから測定する しっかり脇をしめる 片麻痺のある人は麻痺のない方で測定する 日内変動がある 平熱には個人差があるので把握しておくことが大切 衣服や寝具によるこもり熱の場合もある |
3.血圧
「血圧」とは、心臓から全身に送り出された血流が血管の内壁を押す力のことです。血液を送り出すときに心臓が収縮したときの血圧が上の血圧で「収縮期血圧」、送り出す血液をためこむために心臓が膨らんだときの値が下の血圧で「拡張期血圧」といいます。
測定方法 | 素肌か薄手の服の上から上腕部にマンシェットを巻く 指が2本程度入るくらいの余裕で、管の接合部が肘のひじの内にくるようにする 血圧を測定する部位の位置は心臓と同じ高さにする 測定時は腕を動かさない 会話をせず静かに測定する |
基準値 | 日本高血圧学会で示されているガイドラインでは、診察室血圧の正常血圧 が120mmHg/80mmHg未満、家庭血圧は115mmHg/75mmHg未満が基準 75歳以上の方は140/90mmHg未満を目指す 参考:特定非営利活動法人日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」 |
注意点 | 動いた後や緊張状態のときなどは血圧が上昇しやすいので、リラックスして測定する |
4.脈拍
脈拍とは、心臓が拍動する回数のことです。異常値を示すときは脱水症状や心疾患が疑われます。
測定方法 | 血圧測定や脈拍測定のときに同時に数値が出る 機器を使用しない場合は橈骨動脈に人差し指、中指、薬指の3本の指を当てて測定する 1分間の脈拍数を数える リズムが一定か、脈が弱くなっていないかも確認 |
基準値 | 基準値は50〜80回/分 高齢者の脈拍はやや少なく50〜70回/分程度 50回未満/分は「徐脈」 100回以上/分は「頻脈」 |
注意点 | 橈骨動脈で拍動が分かりにくい場合は総頸動脈で測定する リラックスした状態でなければ数値が変動しやすい |
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異常値が出たときの対処法
異常時が出たときはあわてないように以下の方法で対処しましょう。
落ち着いた状態で再検する
バイタルの異常値が出た場合は、落ち着いた状況で再検しましょう。これまで説明してきたようにバイタルは測定時の状況により異常値が出やすくなるため、リラックスした状況で測定することが大切です。また、測定機器によっても数値が変わる場合もあるので注意が必要です。
平常時の数値を確認する
バイタルには基準値が定められていますが、とくに高齢者の場合は数値に個人差があります。持病をお持ちの方が多いため、通常時の数値が基準値から外れている方もいます。そのため、普段の測定値がどれくらいかを把握してくことが大切です。医師や看護師などにも報告が必要な基準値を聞いておくと安心です。
また、普段の数値を把握するために測定値は必ず測定時間とともに記録に残しておきましょう。日々の記録は大切な指標になります。
医療職へ連絡して指示を仰ぐ
普段と同じ条件で測定しても異常値が出る場合には対処が必要です。速やかに指定されている緊急連絡先へコールして指示を仰ぎましょう。訪問看護サービスを利用されている方は看護師が連絡先の方もいれば、かかりつけ医に連絡するようになっている方もいます。緊急時の連絡先は必ず確認しておきましょう。明らかに緊急性が高い場合は、ヘルパーが救急車を呼び救急搬送するケースもあります。
何か少しでも心配な事があれば抱え込まずに、必ずサービス提供責任者に情報共有して対応を確認することが大切です。
普段の様子を把握しておくことが大切
今回の記事では、バイタルチェックについて解説しました。ご利用者の健康を守るためにも、バイタルチェックは重要なスキルです。測定方法を正しく理解し、あわてず対応できるように確認しておきましょう。
また、ご利用者の正確な情報を記録として残しておくこともヘルパーの大切な役割です。普段の様子をしっかりと残しておくことで、数値が比較できるため異常値が発見しやすくなります。異常があったときの対応方法を共有しておくことも大切です。
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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