「共に行う家事」の算定についてお悩みではないでしょうか?
何となく理解していても、ご利用者によって支援内容が異なるので定義が難しいと感じる方が多いかもしれません。
今回の記事では「自立支援のための見守り的援助」に位置付けられている「共に行う家事」について解説します。
共に行う家事はご利用者の心身の健康を維持するためには、とても有効な援助内容です。ルールを把握し、適切に算定できるようにしっかり確認しておきましょう。
自立支援のために「共に行う家事」とは?
訪問介護の代表的な援助内容には「身体介護」と「生活援助」があります。身体介護は移乗・移動・食事介助・入浴・排泄といったご利用者の身体に直接触れて行う介護です。
一方、生活援助はご利用者が行えない日常の家事を代わりにヘルパーが行うサービスで、掃除・調理・洗濯・買い物などが該当します。本来なら生活援助で算定する家事支援ですが、ヘルパーだけで行うのではなく、自立支援を目的にご利用者と一緒に行った場合には身体介護として算定できます。これが、「自立支援のための見守り的援助」です。
ただし、一緒に家事を行えば良いのではなく、自立支援を目的にしているというのがポイントです。ヘルパーがやればすぐに終わる生活援助ですが、すべてをヘルパーがやってしまってはいけませんし、ほったらかしもNGです。安全性を確保しながらご利用者が意欲を持って実施してもらえるように支援することが大切です。
老計10号の身体介護に位置付けられている
「共に行う家事」は、老計10号の身体介護に位置付けられています。老計10号とは、訪問介護としてできることを明示した厚生労働省の通知であり、訪問介護サービスの基礎となるものです。どのように記載されているのか見ていきましょう。
平成30年の改正で明確化された
「共に行う家事」は、身体介護における「自立生活支援のための見守り的援助」として位置付けられています。しかし、どのような援助が自立支援にあたるのかを判断するのは難しいところです。それぞれに解釈が異なっていたため、平成30年度の改正で老計10号の見直しが行われました。
新 | 旧 |
---|---|
自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助(自立支援、 ADL・IADL・QOL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助 できる状態で行う見守り等) | 自立生活支援のための見守り的援助(自立支援、 ADL向上の 観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等) |
上記のように「重度化防止」「IADL」「QOL」の文言が追記されています。
ADL:日常生活の基本的な動作
IADL:応用的な動作
QOL:生活の質
自立支援のための見守り的援助の実例
老計10号では、見守り的援助として15の内容を例にあげています。
- ベッドからポータブルトイレやいすへ移乗する際の付き添い
- リハビリパンツやパット交換の見守り、声かけ
- 認知症等の高齢者に声かけと誘導で食事や水分摂取の支援
- 入浴、更衣等の見守り
- 移動時に転倒しないように側について歩く
- ベッドの出入り時など自立を促すための声かけ
- 服薬時の見守り、促し
- 手助けや声かけ、見守りしながら行う掃除、整理整頓
- ゴミの分別、ルールを思い出してもらうような援助
- 認知症の高齢者と一緒に冷蔵庫のなかの整理等を行うことにより、生活歴の喚起を促す
- 洗濯物を一緒に干したりたたんだりすることにより自立支援を促す
- 手助けや声かけ、見守りしながら行うベッドでのシーツ交換、布団カバーの交換等
- 手助けや声かけ、見守りしながら行う衣類の整理、被服の補修
- 手助けや声かけ、見守りしながら行う調理、配膳、後片付け
- 車イス等での移動介助で店に行き、本人が自ら品物を選べるよう援助
参考:厚生労働省「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」
これらの援助は、ヘルパーがいつでも手助けできる状況で、ご利用者の安全を確保しながら行わなければなりません。上記はあくまでも事例であり、ご利用者の自立支援・重度化防止のために行う、ほかの行為も見守り的援助に該当します。
日本ホームヘルパー協会による令和2年の調査研究によると、実際に行われている見守り的援助の内容で多いのが、「①共に行う掃除・整理整頓」「②共に行う調理・配膳・後片付け」「③服薬時の見守り、促し」でした。
参考:厚生労働省「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」
参考:日本ホームヘルパー協会「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助に関する調査研究 報告書」
「共に行う家事」のメリット
「共に行う家事」の目的は、ご利用者の自立支援・重度化防止です。できないからといって、すべてヘルパーに手伝ってもらっていては身体機能が衰え、意欲も低下してしまいます。一人では難しい家事を、ヘルパーの見守りのもと一緒に行うことは生活リハビリにつながります。
認知症の方も、ヘルパーがサポートすればできることや思い出せることがたくさんあります。生活のリズムを整え、落ち着いた生活を取り戻すことにも効果的です。自分で行える喜びや可能性を見出すことにもなるでしょう。
算定する際の注意点
訪問介護で同じ家事を行っていても、生活援助と身体介護では点数が異なります。報酬が高くなる身体介護を算定することになるため、算定する際の注意点を抑えておきましょう。
単なる見守りだけでは算定できない
自立支援のための見守り的援助は、ヘルパーがすべて行うのではなくご利用者に動作をおこなってもらうのを見守ります。しかし、ご利用者を見ているだけではNGです。ご利用者が動作や家事を行っている間、ヘルパーは常に安全性を確保しておかなくてはなりません。そのため、すぐに手助けできるように動作を側で見守る必要があります。ヘルパーには、ご利用者の「できること」と「できないこと」を把握し、できないことは適切にサポートする役割があります。ただやってもらうだけでなく、目的を意識して支援することが重要です。
ケアプランに位置付けられていなければならない
自立支援のための見守り的援助は、ケアマネジャーが作成するケアプランに位置付けられていなければ算定することができません。支援の目的が明確でなければならないからです。
ケアマネジャーはご利用者のニーズを把握するために、適切なアセスメントを実施することが大切です。その結果、ご利用者のADLの維持や意欲の向上の観点から、必要だと判断した場合、ケアプランに位置付けられます。
ご本人・ご家族の同意が必要
自立支援のための見守り的援助をケアプランに位置付けた場合は、ご本人・ご家族の同意が必要です。ケアプランの内容については、すべての援助において同意は必要なものですが、「共に行う家事」は特に注意して説明しておかなくてはなりません。ヘルパーが行えば短時間で終わる援助にも関わらず、ご利用者に行ってもらうことで時間がかかる援助になるからです。生活援助ではなく身体介護で算定する訳なので単価も上がってしまいます。しっかりと説明をしておかなければ、「損をした」「お金儲けをしている」と思われかねません。
そのため、ご利用者やご家族には、生活援助ではなく見守り的援助にとして実施することの意義を理解してもらう必要があります。トラブルにならないためにも、しっかりと説明した上で、目的を持って実施しましょう。
見守り的援助で「できること」をサポートしよう
今回の記事では「訪問介護の「共に行う家事」とは?見守り的援助を理解しよう!」と題して解説しました。
「共に行う家事」は、単なる見守り、声かけにならないように注意し、目的・目標を意識しながら実施しなければなりません。自分一人だけでなく、ヘルパー全員で共通認識をもって支援することが大切です。そして、支援の状況は、他のヘルパーやサービス提供責任者、ケアマネージャー、そしてご家族など、ご利用者に関わるすべての人たちで情報共有しながらチームとして取り組む必要があります。
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訪問介護で「できること」「できないこと」が大きなイラストと事例でわかりやすく解説されています。
「身体介護」「生活援助」など、介助別に全90の事例をQ&Aで解説。
できるだけ難しい言葉を使わず、わかりやすく解説しているので、訪問介護の仕事を始めたばかりの方、新人のサービス提供責任者、さらには訪問介護の利用者や家族まで、参考になる1冊です。
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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