特定事業所加算は専門性の高い人材を確保し、質の高いサービスを提供している事業所を評価するものです。国は、より良いサービスが提供できる事業所を安定的に確保し、介護保険サービスの質の向上を目指しています。
特定事業所加算を算定するためにはいくつか要件がありますが、今回はその中の要件の一つである「個別研修計画」のルールを解説します。
目標設定のコツや記入例もご紹介しますのでぜひ参考にしてください。
特定事業所加算の要件|個別研修計画とは
特定事業所加算には段階があり、算定できる要件や加算の割合が異なります。
これまでは(Ⅰ)〜(Ⅴ)の5種類の中、個別研修計画に基づく研修の実施は、(Ⅳ)以外の全ての加算に含まれている要件となっていました。((Ⅳ)はサービス提供責任者の個別研修計画作成が要件)
しかし、2024年度の介護報酬改定により算定要件などの見直しが行われ(Ⅳ)が廃止となりこれまでの(Ⅴ)が(Ⅳ)に変更されます。また、新たな要件の特定事業所加算(Ⅴ)が新設されました。
これにより、すべての加算区分により訪問介護員とサービス提供責任者の個別研修計画が必須なものとなります。
参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
個別研修計画のルール・考え方
個別研修計画は、ただ個々の研修を予定すれば良いものではありません。作成するにあたって、ルールや考え方を確認しておきましょう。
1.全体の研修計画は分けて実施する
訪問介護事業所には、1年間で行わなければならない「法定研修」の機会が法律で義務付けられています。法定研修は、特定事業所加算の取得の有無にかかわらず、すべての事業所で実施しなければなりません。
法律で定められている訪問介護事業所の研修内容は以下の通りです。
- 認知症及び認知症ケア
- プライバシーの保護の取り組み
- マナーと接遇
- 倫理及び法令遵守
- 事故対応、再発防止
- 緊急時対応
- 感染症予防、蔓延防止
- ハラスメント対策
- 人権擁護・虐待防止
- 感染症および災害時に係る業務継続計画(BCP)
10の「感染症および災害時に係る業務継続計画(BCP)」は令和6年度より義務化される研修です。これらの法定研修は年間の研修計画を作成し、計画的に実施しなければなりません。
特定事業所加算の個別研修計画は、これらの研修とは別に違う内容で実施する必要があります。
2.目標を達成するための研修が求められる
個別研修計画は、スタッフそれぞれが掲げた目標を達成するための内容でなければなりません。
そのため、以下のような個別性の低い内容は対象外です。
- ベテラン職員に対して基礎的な介護スキルや知識に関する研修
- 事例検討会の出席
- 〇〇の使い方など、使用方法のレクチャー
管理者は、目標の達成状況を適宜確認し必要に応じて改善措置を講じる必要があります。職員が研修が受けられるように勤務体制を確保し、スキルアップできる環境を整えることも大切です。
3.勤務形態にかかわらず全員分作成する
特定事業所加算を算定するための個別研修計画は、管理者専従者を除くすべての職員が対象です。サービス提供責任者・常勤・非常勤・登録スタッフ・派遣スタッフなど、役職や勤務形態は問いません。
訪問介護サービスに関わるすべての職員に対して作成しなければならないため、勤務日数が少ないからといって対象外にしないように注意が必要です。新規に採用されたスタッフの研修計画も忘れず作成するようにしましょう。
4.グループごとに実施してもOK
個別研修は、個人ではなくグループごとの実施も認められます。研修内容を経験年数や保有資格、役職ごとに分けてグルーピングして設定してもOKです。
ただし、それぞれの個人目標を作成することは必須であり、研修内容もその目標を達成するためのものでなければなりません。あくまでも、目標に沿った内容であることが大前提です。
5.年に1つ以上のテーマでOK
個別研修は「すべての訪問介護員等が概ね1年の間に1回以上、何らかの研修を実施できるよう策定すること」とされています。
年に1つ以上のテーマについて研修を実施すればOKなので、毎月行ったり、年に複数回設定する必要はありません。
ただし、特定事業所加算の趣旨を理解し、職員のスキルアップを目的とした研修を設定する必要があります。そのため、短時間で終わるような研修などは認められないケースがあるため注意が必要です。
個別研修計画に記載する内容
個別研修計画には、特に決まった書式が定められていません。記載する項目は、研修の「目標・内容・研修期間・実施時期」とされています。
まずは職員がどのような能力を有しているのかを把握し、職員自身が習得したい能力と事業所が習得して欲しい能力などを踏まえて目標と研修計画を作成します。
確実に計画を遂行するために、研修を行う時期や期間も明確にしておくことが大切です。
目標設定のコツ
いざ個別計画を立てようとしても、なかなか難しいもの。
目標設定をするときのコツをご紹介しますので参考にしてください。
課題を明確にする
目標設定するときはまず、自分の課題を明確にしましょう。不足している介護技術や知識、今までで失敗したこと、うまくいかなかったことなどを洗い出します。そうすると、解決すべき課題が浮かび上がるはずです。
これまでを振り返り、改善したいところや上達したいことなどに着目すると目標設定のヒントにつながります。
なりたい姿を描く
自分がどのようなサービスを提供したいのか、どのような介護士になりたいのかを具体的に描くことも大切です。イメージすることで、理想のヘルパー像に足りていない知識や技術が明らかになるので目標が立てやすくなります。
「介護福祉士の資格を取得したい」「サービス提供責任者を目指したい」など資格や目指したいキャリアを考えるのも良いでしょう。
達成可能でより具体的な目標を設定する
目標は達成可能で、より具体的に設定することもポイントです。目標が具体性にかける場合、目標に到達できたのかの判断がつきません。
例えば「コミュニケーション能力を高める」といったざっくりとした目標を設定した場合、どんな状態がコミュニケーション能力が高い状態だと思うのかは人によって異なるからです。
ご家族とうまくコミュニケーションが取れない場合は「ご家族に自分から声をかけ普段の様子が伝えられるようになる」、認知症のご利用者とのコミュニケーションに困ることが多い場合は「認知症の周辺症状について知識を身につける」などがよいでしょう。
目標がより具体的に設定できれば、受けるべき研修内容はもちろん、勉強しなくてはならないことや、日々の業務でも具体的な行動に落とし込むことができます。
個別研修計画の記入例
ここからは具体的な研修計画を見てみましょう。
新人ヘルパーの個別研修計画記入例
【氏名】 | ◯田 ◯男 |
【経験年数】 | 2年 |
【資格】 | 介護職員初任者研修 |
【研修目標】 | 力に頼らずボディメカニクスを習得し、安心・安全な移乗介助ができるようになる |
【研修内容】 | 事業所研修:✕✕サ責による移乗介助の研修(2024年8月) 外部研修:介護実務者研修(2024年5月) |
【氏名】 | △山 △子 |
【経験年数】 | 1年 |
【資格】 | 介護実務者研修 |
【研修目標】 | 記録にかかる時間を短縮するとともに、伝わりやすい記録の書き方を習得する |
【研修内容】 | 事業所研修:✕✕サ責による実施記録の書き方研修(2024年4月) 事業所研修:✕✕管理者による報告書の書き方研修(2024年8月) |
ベテランヘルパーの個別研修計画記入例
【氏名】 | ◯田 ◯美 |
【経験年数】 | 10年 |
【資格】 | 介護福祉士 |
【研修目標】 | 認知症ケアについての知識を深め他の職員に指導・助言できるようになる。 |
【研修内容】 | 事業所研修:✕✕看護師による認知症ケア研修(2024年9月) 事業所研修:事業所の認知症ケア研修の講師を担当する(2025年2月) 外部研修:認知症介護実践者研修(2024年6月・11月) |
【氏名】 | △山 △郎 |
【経験年数】 | 5 年 |
【資格】 | 介護実務者研修 |
【研修目標】 | サービス提供責任者になることを目指し、サ責業務・介護保険法を理解する |
【研修内容】 | 事業所研修:✕✕サ責によるサ責業務研修(2024年7月) 事業所研修:本社✕✕氏による法令順守研修(2024年10月) 事業所研修:事業所の介護保険制度研修の講師を担当する(2025年2月) |
正しい運用で特定事業所加算を得よう
今回の記事では、特定事業所加算の個別研修計画について解説しました。
特定事業所加算には研修以外にも、サービス提供にあたっての会議や、利用者情報の伝達や報告のルールなどいくつか要件があり、事業所にとっては大きな負担です。ずさんな運用をしている場合や、思い込みから正しい運用ができていない場合は不正請求になってしまうため注意が必要です。
そこで、研修動画サービスをはじめ、特定事業所加算取得(継続)サポートも利用できる「テレッサモバイル」がおすすめです。テレッサモバイルは介護記録をLINEアプリで記入・報告でき、加算の「指示・報告」の要件クリアに役立ちます。
加算取得により報酬がアップすれば事業所運営が安定します。さらに増収分をスタッフの給料に反映できれば職員の定着率をあげることも期待できます。
特定事業所加算を算定するメリットは大きいものです。テレッサモバイルを利用することで積極的に加算を取得しサービス向上を目指しましょう。
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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